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電子佛教辭典

(The Digital Dictionary of Buddhism)

http://buddhism-dict.net/ddb

 

A.チャールズ・ミュラー

東京大学次世代人文開発センター特任教授

赤門総合研究棟 #722

 

1986年当時、大学院生として漢訳仏典の研究を始めたとき、筆者は欧米の研究者にとって利用可能な参考書の不足を痛感し、大学院での勉強のかたわら、東アジア仏教語辞典 (Digital Dictionary of Buddhism [DDB] http://www.buddhism-dict.net/ddb/)の作成を始めた。そして同時に、 密接に関連するプロジェクトである東アジア漢文語彙辞典 (CJKV-English —仏教専門用語以外の漢文-英語の辞書 http://www.buddhism-dict.net/dealt/) にも着手した。筆者は 、広範囲な東アジアの仏教、儒教および道教テキストの研究を続ける中でこの二種の辞典編集作業に従事し、現在までこの取り組みを続けている。そして博士課程の修了後、現在までの17年間で、筆者が研究してきたテキストにおける専門用語の大部分の入力を完了した。

このプロセスを開始した時には、インターネットのような存在は勿論想定できなかった。また、当初は、これらの語彙集をデジタルデータベースとして利用する可能性も検討していなかった。筆者は、単に、より洗練された、大規模で、より有益な辞書を印刷物として公表することを目指していた。 しかし、コンピューターが普及してその利用法が広がるにつれて、筆者は、デジタル辞書及び百科事典が、印刷物の辞書よりも研究調査において遥かに強力なツールであることを理解するようになった。そして、筆者は、世界中の研究者がインターネットを通じてこれらの辞書を利用するようになる可能性を認識し、さらに、インターネットがプロジェクトへの研究者の関心を高める可能性をも認識した。そこで、1995年にウェブサイトを作成し、両辞典を掲載した。 当時、筆者は基本的なHTMLドキュメントの作成方法しか理解していなかったので、辞典の構成は非常に簡素なものであった。 その時点では、DDB には約2,800語が含まれていた。

両辞典をインターネットに公開した直後に、筆者と面識のない世界中の多くの研究者からの連絡があり、ウェブ公開の方法やデータの構成と処理から辞典の内容に至るまで、多岐にわたる様々なアドバイスを受けた。その頃から現在に至るまで、辞典の内容は着実に深化しつつあり、かつ、収録されている語彙の対象領域もより広範なものとなってきている。そして、それとともに、内部構造も、より高度な応用が可能となるように、より精緻に構造化されてきている。特に内容面に関して言えば、DDB は当初は自らの研究の為に作成したために、収録語彙の大部分は、自ずと、それほど広くない範囲に限られたものとなっていた。しかし、インターネットに公開されて以来、時代や分野を異にする様々な課題を研究している多くの仏教学研究者達からデータの提供を受けるようになり、それとともに、収録語彙の範囲は急速に拡大してきている。現時点では、100名以上の世界中の研究者が協力しており、辞書に収録されている語彙は約 65,000に達している。さらに、定期購読契約をしている大学だけでも55校にのぼっており (http://www.buddhism-dict.net/ddb/subscribing_libraries.html)、いまや、仏教学分野においては欠かせない学術リソースとして位置づけられている。また、2008年より、DDBは、東京大学に設置されているSAT大蔵経テキスト データベース(http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/ )との相互連携サービスを開始した。このサービスは、DDBとSATの双方の機能に組み込まれたものであり、それぞれのユーザは様々な便利な方法で双方のリソースを透過的に利用できるようになっている。このように、DDBは、学術情報リソースとしての質や量の充実を目指すのみならず、その活用手法においても常に斬新な可能性を追求し続けているのである。